コロニアル様式の優雅な気品と老舗の風格を誇る名門ラッフルズホテル。
1887年開業、東洋の貴婦人とも称されたラッフルズホテルは、2019年8月に2回目の大規模な改修工事を終えリニューアルオープン。
ホテルのシンボルでもある壮麗なファサードから笑顔で迎えてくれたのは「Resident Historian(専属歴史家)」のレスリー・ダンカー氏。
133年の歴史を刻む同ホテルで最も長く勤務し、二度の修復工事を見届けた唯一のスタッフとしてホテルの歩みを語る生き証人です。
今回、日本人にも馴染みのあるラッフルズのアイコンについて興味深いエピソードを聞かせていただきました。
1902年サーカス団が所有していた虎が逃げ出し、ホテルに迷い込んだという逸話が残っています。Bar& Billiard Roomの床下に虎が潜んでいたところを、急遽召喚された銃の名士が狙い撃ち、3発のミスショットの後、2発を命中させて虎は息を引き取りました。
マスコット的存在として土産物店入口に鎮座している大きな虎は、当時のストーリーをもとに再現した実物大です。
真っ白なターバンと立派な髭が印象的なドアマン。
伝統的にシーク教徒が務めるその職のルーツはイギリス植民地時代にあります。当時アジア交易で圧倒的な覇権を握っていた東インド会社が有する軍隊の制服をモチーフにユニフォームを考案、ホテルの上品で繊細なイメージに合わせて白が採用されました。ターバンは彼らの私物です。
かつて女性が人前でお酒を飲むことはエチケットに反するとされ、ジュースや紅茶を選ぶのが一般的でした。そこに目を付けた海南人バーテンダーのNgiam Tong Boonが、透明なジンやピンク色のチェリーリキュールなどを使い、フルーツジュースのように見えるシンガポールスリングを生み出したのです。
1920年代マラヤの農園経営者たちが集い、ブラスバサー通りに面した長いカウンターに横一列に腰掛けて行き交う女性を眺めたことから「ロングバー」との名が付きました。
カジュアルな雰囲気やピーナツの殻を床へ落とすスタイルは当時のマレー人の暮らしをイメージしているから。現在はシンガポールで唯一”ポイ捨て”が許されている場所でもありますね。
扇状に広がる葉の根元部分に貯まった雨水が、旅する者の喉の渇きを潤したことから「Traveller’s Palm(タビビトノキ)」の名前が付いたといわれています。
従業員やホテルもお客様にとって、旅の疲れを癒す居心地の良いオアシスでありたいとの願いを込め、ホスピタリティの象徴としてラッフルズホテルのエンブレムにもなっています。
パームガーデンに佇む優雅な噴水は、スコットランドにて製造されたもの。シンガポールへ渡ってきたのは1890年代、当初はテロックアヤ・マーケット(現在のラオパサ)にあり”Victorian Fountain”と呼ばれて親しまれてきました。1902年にはオーチャードのマーケット(現在のペナンロード辺り)、1930年にはカトンのホテルと転々とした後、1989年にラッフルズホテルに移され、落ち着きました。
ソーシャルワーカーとして15年従事した後、ホテルへの転職を決意。メンテナンススーパーバイザーとして入社すると、その献身的な人柄や高い語学力が評価され、F&B、情報管理、コンシェルジュ、人材育成などほぼ全ての部門を経験、2004年に「専属歴史家」に抜擢され今年勤続49年を迎えます。ホテル宿泊客は事前に予約すれば同氏の歴史ツアーに参加可能。「ラッフルズのユニークな歴史を貴方にもお話しできる日を楽しみにしています」と、著書とともににっこり。
National Heritage
Boardと共同で昨年発刊された回想録。ダンカー氏の48年間のキャリアを通して語られる豊かな歴史と興味深い逸話が詰まった一冊。ラッフルズブティック店内とオンラインで購入可。