#ライフスタイル

保護猫から “ずっとのおうち”を見つけるまで TARO物語

PARTI 編集部のデザイナー・あみたんは、大の猫ラヴァ―。
昨年末、10年間もシンガポール生活を共にした愛猫コバンさんの天国への旅立ちを見送り、ペットロスになるなか、ひょんなことから「保護猫ボランティア」をすることに。最初にやって来たTAROさんと家族になり、妹分ユズちゃんを迎えるまでのほっこり感動物語。






10年前、ノラの子猫だったコバンさんを連れて帰り シンガポールで猫LIFEが始まりました

先代コバンさんとの出会い

先が三角にカットされているノラ猫を見たことはありませんか?
耳カットは「地域猫」の印。動物保護団体により、不妊・去勢手術を終え、ノラでも元気にやっていける状態かチェック済の猫さんたちです。

団体の活動は絶え間なく続いていますが、町には常に困っている猫さんたちが潜んでいます。とくに子猫や病気の猫は保護が必要。あみたんの愛猫コバンさんも初めはノラの子猫でした。

生後4~5か月のコバンさん。あみたんのおうちに来た日。初めてベッドで寝た日。


「子どもの頃から実家で猫を飼っていて、シンガポールに来てからも猫が欲しいなあと思っていたんです。そんなとき、猫好きの知人から気になるノラがいると聞き、会いにいきました。猫に毒を与えるおばさんがいるという恐ろしい噂が流れていたこともあり、引き取ってもよいかなと。行ってみると、HDBのローカル商店が立ち並ぶ一角で、固いタイルの上にぽつんと子猫が座っていました。白と黒の毛色で、なんだかシルエットがおにぎりみたいな子でした。前に実家で飼っていた子と同じ配色、同じ八割れ(顔の毛が鼻筋を境に2色に分かれている猫)のお顔。まず見るだけのつもりがその日のうちに連れて帰り、入念にシャンプーをして、初日からベッドで一緒に眠りました」

デザイナーとして働くあみたん。いつもそばにいたコバンさん。


子猫の名前はコバンと名付けられ、新しい暮らしが始まりました。ちなみにコバンはHDBのアイドル猫として住民に可愛がられていたので、後日、住民たちにコバンを引き取ると伝えると、みんな祝福してくれたそう。コバンはこれまで人懐こくエサをもらって生きながらえてきましたが、あみたんの家に落ち着くと、急に人見知りになったとか。知らない人が来ると一目散にクローゼットの中に避難。自分の居場所が見つかり、安心した反動かもと、あみたんは振り返ります。

あみたんが一時帰国の折にはスーツケースの半分はコバンのごはんやおやつ。大切に、大切に育てられ、小さかったコバンはなんと9㎏もの大猫へと成長し、存在感たっぷりのシャイでキュートなおじさん猫になっていきました。

体重9kg、穏やか猫さんに。他人が来ても威嚇はしない。嫌なときは隠れる、それだけ。




コバンの急逝、猫の死について思うこと

「コバンさんは、10年間で一度も病気をしたことがない健康猫さんでした。でも昨年末のある日の夕方、突然苦しみだしたんです。急いで救急病院に連れて行くと、おそらく心臓のトラブルによる肺水腫だと診断されました。これは陸上で溺れているような苦しい状態。肺から100ccのお水を抜く処置を受け、酸素室に入れられました。その日の23時、一度帰宅していた私に、クリニックから電話が入りました。とても苦しんでいるから、安楽死させてもよいかと。私は『ちょっと待って。すぐに行くから!』と家を飛び出しました。でもお別れの瞬間には間に合いませんでした」

あみたんは猫の安楽死についてこう語ります。
「これまで私は猫に安楽死はさせたくないって思っていたんです。猫は自殺しないでしょ。猫はね、きっと毎日できるだけ同じように暮らしたいんです。自然に死んでいくのが猫。前に飼っていた猫も、最後の晩、体力がなくて母のベッドに上がれずニャーって鳴いて上げてもらって、朝起きたらベッドの上で逝っていました。これまで飼っていた4匹の猫とも、みんな自然な最期でした。でも苦しかったコバンさんを思うと、安楽死もありなのかなと少し思うようになりました」

急に逝ってしまったコバン。
初めは実感のないまま過ごし、その後もひどく落ち込むというより、どんより気重な日々が長く続きました。
キャットフードを鞄に忍ばせ、ノラ猫を探して町をウロウロしたことも。

コバンを最後の猫にしよう。
あみたんはそう思っていました。その代わり、本帰国となったら猫用の部屋を用意して、シニア猫さんの預かりボランティアをしようと決めたそう。リラックスして愛情をいっぱい感じて最後の時間を過ごしてほしいから。コバンの看取りが不完全燃焼だった分、シニア猫さんの面倒をみたいと思うようになったと言います。




シンガポールの保護猫の実情

TAROとの対面

あみたんは、可愛い猫を愛でたい一心で、日本とシンガポールの保護猫サイトをよく見るようになりました。里親が必要な猫のプロフィール写真が随時更新されているのです。コバンが逝ってから約3か月経ったころ、「cat welfare socie ty(CWS)」という団体のサイトで、あみたんは気になるポストを見つけました。

「掲載されている多くが子猫のなかで、TAROという4歳の猫がいて、この子だけ何故か『3月1日まで』という日付が付いていたんです。見つけたのは2月26日。この日付は何だろう?もし3月1日までに里親が見つからなければ、殺処分にされてしまうのかしら?と考えたら、居ても立ってもいられなくなり、記載のあった電話番号に連絡をしました。電話に出たのは、個人的に保護活動をしている女性のレスキューさん。彼 女は師匠とともに毎月10匹程の猫を保護し、一時的に預かってくれるボランティアと里親を探していました。CWSのサイトは、こうした個人活動の人もポストできる仕組みなんです。

駐車場で衰弱していたTAROさん。


TAROさんはすでに3か月、ボーダー(お金をもらって猫を預かる人)のところにいて、3月1日にまたボーダーの更新をしなくてはいけない状態でした。ボーダーには1か月$350の費用がかかり、寄付金で賄われているとのこと。そんな状態を知り、私はとりあえず、ボランティアでTAROさんの一時預かりを引き受けることにしました」

保護された瞬間。ケージの中で不安そうな表情。


やって来たTAROさんは、猫なのかアライグマなのか首をかしげてしまう、独特な風貌をしていました。目が離れ気味で、女優の片桐はいりさんにも似ているような。保護されたのは、コーズウェイポイントの駐車場。ノミだらけのガリガリで3㎏しかありませんでした。保護されてから清潔にしてもらい、体重は5㎏まで増え、長毛の毛並みも生えそろってきたとか。幸いあみたんの家には、コバンさんが使っていた猫グッズ がそのまま置いてあり、スムーズに生活はスタートしました。

ユニークな風貌のTAROさん。長い被毛を持つ「ラグドール」種のミックスで、離れがちの目が特徴的。


「何でTAROって名前なのかと聞いたら、保護した日にタロイモのデザートを食べたからって。『太郎』という意味ではなかったんですね。このレスキューさんは、猫たちの未来がスイートになるように仮の名前に、いつもデザートの名前を付けるんですって」

あみたんのおうちへ来た初日。隠れてごはん。ベッドの下で過ごす。


このとき初めて、あみたんはシンガポールの保護猫の実情を知り、ショックを受けたそうです。ノラ猫の多くは、子猫の可愛い時期を過ぎ、飽きられて捨てられた猫さんなんだとか。あるいは妊娠に気付いて捨てられる、逆に生殖能力がなくて捨てられる、家庭環境が変わって捨 てられる……とくに何故かハリラヤの時期に捨て猫が急増するといいます。

CWSの公表では、1999年には年間13,000匹の猫が処分されていたそうです。
2015年には1,000匹以下と大幅に数が減ったとはいえ、まだまだ猫の保護活動は必要なのが現状です。

お膝の上で甘えるTAROさん。あみたんの優しさに触れて、凍っていた心が溶けていく。


「TAROさんは成猫で貰い手が少ない状況でしたが、珍しい長毛だったので、うちに来て2週間で里親候補が見つかりました。レスキューさんは、里親候補さんの生活環境を調べ、転落死防止対策をお願いしました。高層住宅が多いシンガポールでは、これがとても大事なんです。でも里親候補の若いご夫婦は、インテリアにこだわりがあって、規定の1.5インチ幅の柵ではなく、オシャレなものを希望されて……。何度かやりとりがあるなかで、私たちは彼らが本当にTAROさんを大切にしてくれるか不安に思うようになりました。そしてついにレスキューさんから私にこんな提案が!もし私がTAROさんの正式な里親になるなら、せっかく見つかった里親候補さんだけどお断りすると。思いがけない話に私は迷いました。TAROさんは預かりものだから情が移らないようにと思っていたけれど、すでに情は湧いていました。それからTAROさんは怒りん坊なところがあって、初めて猫を飼う人には難しいのではという心配も。TAROさんは風貌は違えど、コバンさんと同じちょび髭、八割れ顔。周囲の後押しもあり、なんだかコバンさんが認めてくれたような気がして、TAROさんを『太郎』さんとして、うちの子にすることを決心しました」

パソコンの前で仕事を邪魔するTAROさん。あみたんの家族となったTAROさん。




コバンがくれた”猫まみれの人生“

いつの間にか家の中に猫がいっぱいの幸せ

我が子のように可愛がっていたコバンさんの死をきっかけに、予期せず保護猫ボランティアとして活動するようになったあみたん。太郎さん を家族として迎えたあとも、太郎さんとの相性を見ながら、保護猫の一時預かりを続けています。

妹分ユズちゃん、こんにちは。3匹一緒に預かり、2匹は貰われ、ユズちゃんはあみたんちの子に。


「うちから2匹の子猫兄弟が貰われていったんですが、今でもSNSで可愛がってもらっている様子が見れてとても嬉しいです。免疫が低い子猫のお世話はクリニックに連れて行ったり、健康状態に気を配る必要があって大変ですが、楽しいこともいっぱい。家にスペースがある限りやっていきたいと思っています」

TAROさんと子猫が慣れたところでケージの外へ。


そして今、あみたんは再び新たな子猫の里親になろうとしています。キジトラのユズちゃん。この猫種はシンガポールで非常に多いため、貰い手が少ないうえに、ユズちゃんは人見知りで里親候補が見学に来ても逃げてしまうのだとか。元々は三兄弟で、マッチャくんとサクラちゃんはすでに貰われていきました。(ちなみに名前は名古屋銘菓ウイロウが由来で、3匹合わせて『ウイロウズ』だったとか)そんな恥ずかしがり屋のユズちゃんも、あみたんの家ではのびのび暮らし、太郎さんが大好きなんだそうです。

TAROさんとユズちゃんがチュー!?

パートナーも大の猫ラヴァ―。あみたんのパートナーも一緒に猫たちの幸せを見守る。


「日本では里親のことを”ずっとのおうち“ということもあって、英語では”Fur-Ever Home “というそうです。人間にとっても家に生き物がいるのは幸せなこと。猫なんて、愛情の塊にモフモフを被せたような存在じゃないですか。家で仕事をしていても、パソコンの前に座り込んで邪魔したりするけれど、そんなときこそ猫の存在に癒されちゃいます。これからもコバンさんがくれた猫まみれの人生を楽しんでいきたいと思います」

ビールの共ににゃんこ。





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名 前:GOMAとSATO(仮)
性 別:2匹ともオス
誕生日:2019年2月頃
保 護:トアパヨの排水溝内





保護活動をしている団体

● cat welfare society
www.catwelfare.org


● SPCA(動物虐待防止協会)
www.spca.org.sg



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