「子どものいないあなたには分からない」
「浮気をされたことのない あなたにはわからない」
「健康なあなたにはわからない」
こんなふうに自分と同じ立場にない人に対して、このような言葉を言ったこと、または言われたことはありませんか?
もしあなたが言われた立場だとすると、どのような気持ちになりましたか?
心からその人のことを心配し、助けになりたいと思っていても、
余程でないとさすがに「ああ、そうですか。じゃあ、勝手にしてください」と思う方も多いのではないでしょうか。
それほど、ショックな言葉であり、場合によっては、これまで心配していた相手に怒りすら覚える人もいるかもしれません。
では、これを言っているあなた。あなたは本当に、そう思っていますか?
つまり、子どものいる人は、あなたの気持ちがあなたと同じように分かるのでしょうか?
浮気をされた人はあなたの気持ちが同等に理解できるのでしょうか?
このようなことを言う人は、自分が「共感性」を持っていないと世間に自ら吹聴しているようなものです。
実際、経験から学ぶことは多く、嬉しいことも苦しいことも、私たちが経験によって成長し、人間的な幅が出てくる(ことが多い)のは確かです。
しかし『学習』は必ずしも自分自身が経験しなくとも、周りの人の観察からいつの間にか学ぶ部分も多いもの。
私たちは成長の過程で、必ずこの観察学習(あるいはモデリング)を繰り返しています。
例えば、宿題を忘れて先生に怒られているクラスメートを見て、忘れないように気をつける。
母親の真似をして、犬のえさをやったり、鍵をかけたりすることを覚える。
数え上げればキリがありません。
ドイツの政治家であったオットー・フォン・ビスマルクは
「愚者だけが自分の経験から学ぶと信じている。私はむしろ、最初から自分の誤りを避けるために、他人の経験から 学ぶのを好む」と言ったといわれていますが、まさにその通りです。
さて、気持ちを共有できる能力(質的に相手の内的状態を体験し、それを把握する能力)を『共感性』と言いますが、これは全ての人に同じように備わっているものではなく、個人差に濃淡があります。
共感性のある同じ経験を持たない人と、共感性のない同じ経験を持つ人では、あなたの気持ちが分かる人がどちらかは明確です。
それでもあなたは、冒頭の同じことを相手に言うでしょうか?
あなたの気持ちを分からない人もきっと多くいます。
しかし、それは同じ経験をしていないことが原因ではなく、共感性の低さかもしれませんし、単にそう決め付けている、あなたの視野の狭さを表しているだけかもしれません。
パートナーや子どもとの仲を深めるためにも大切なスキル『共感性』は育てることが可能です。
また、人生のさまざまな経験がその役に立つことも事実です。
主観的で、こり固まった視野のなかで生きている人は、まずその枠組みを取り外すことから始めましょう。
山形千尋
BeeYrOwn心理士。(応用心理学修士・カウンセリング学修士)
オーストラリア・カウンセリング協会会員、シンガポール公認心理士。