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【シンガポールNOW】
廃棄パンからビール、食品ロス削減へ!
フードテックCRUST、日本でも展開

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-Singapore-
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シンガポールNOW

廃棄パンからビール、食品ロス削減へ!
フードテックCRUST、日本でも展開

jiji
クラスト・グループ副社長の平野宏幸さん=2月13日、シンガポール

あなたのビール1杯が社会貢献につながる―。
こんな楽しい環境問題への取り組みはない。
まだ食べられるのに廃棄されるパンなどを原料にしたビールの製造販売を手掛けるのは、シンガポールのフードテック新興企業クラスト・グループ(CRUST GROUP)だ。
食品ロスを「おいしくアップサイクルする」ことを合言葉に、サステナブルな飲料を数多く世に送り出している。
2019年に設立し、21年には日本市場に進出した。
自社ビールの販売だけでなく、食品ロスとなる食材をアップサイクルする総合的なプラットフォームの提供も手掛ける。
グループ副社長の平野宏幸さんに話を聞いた。



ビール×環境問題への情熱

19~22年の年平均成長率(CAGR)は70%と成長を遂げている。
平野さんは、趣味で自家製ビールをつくっているほど大のビール好きだ。
長年の環境対策への思いと、ビールへの情熱をかけ合わせたクラストでの仕事は「趣味が仕事になったようなもの」とやりがいを感じている。シンガポール在住歴は15年。

シンガポールでは日系商社で持続可能エネルギー事業などに従事していた。
新規事業として、食品ロスのアップサイクル事業の立ち上げを商社時代に持ちかけたが、企画は通らず。
「ライフワークとして取り組みを続けよう」と思っていたところ、シンガポールで同時期に立ち上がったクラストの首脳との縁ができ、オファーを受けて22年4月にチームに加わった。
現在、シンガポール・日本での市場開発や、企業向けの展開、新規事業開発を一手に手掛けている。


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クラストのビジネスモデル(同社提供)

クラストの取り組みの興味深い点は、そのビジネスモデルにある。
食品廃棄物を原料にドリンクを開発し、商品化までもっていく「アップサイクル製品のプラットフォームづくり」を戦略的に行っているところだ。
顧客企業側で廃棄せざるを得ない食品があれば、それをどのようにおいしい食品として生まれ変わらせるか、共に並走しながら模索する。
ビールの原料となるのはパンのほか、野菜や果物の余剰分でもいい。
原料プロバイダー、製造パートナー、ビジネスパートナーの間でクラストが調整役となる。
レシピを考案し、試作品を作り、試飲を行う。
ラベルデザインも提案し、最終的に商品化させる。
こうした取り組みから、国立植物園のハーブを使ったユニークな発泡酒や、地元のパン有名店のバゲットをつかったビールなどが発売された。



地方自治体とビール開発

平野さんは日本でも、こうしたプラットフォーム作りにより力を入れていきたいと語る。
現在、福岡県北九州市と協力し、「地元のトマト生産拠点から廃棄されてしまうトマトを原料とするビール」づくりに取り組んでいる。
現在までに3回の試作を経て、3月末に研究成果のお披露目を行う予定だ。
トマトビール・・・一体どんな味わいになるのだろう。
新たな特産物になる可能性も秘めているとして、市からの期待も熱い。

製造は北九州市とその近隣に拠点を置く企業が担う。
これを通じて「地方創生までお手伝いする」のが狙いだ。
クラストは仕組みづくりをサポートし、地産地消を重視する姿勢は変わらない。
「これを地方創生モデルとして採用し、日本全国に展開していきたい」と意気込みを語る。
地域特有の食品をアップサイクルすれば、地域の特色も出せてユニークな商品が生まれそうだ。

日本では廃棄炊飯米を使ったビール「箔米(はくまい)ビール―白金(しろがね)―」の開発を行ったり、22年10月からはナチュラルローソンの80店舗でクラストの果物や野菜の余剰分を原料にしたノンアルコール炭酸飲料「CROP」をシンガポールに先立ち販売したりと着実に実績を積み上げている。



増える取引


クラストが手掛けたサステナブル飲料

シンガポールではパンを原料とした自社ブランドのクラフトビール「CRUST」を販売している。
大手スーパーのフェアプライス・ファイネスト全店舗などで取り扱いがある。
「CROP」も3月下旬より販売を開始する予定だ。
小売価格はビールが6.2シンガポールドル(以下ドル、約620円)、炭酸飲料が2.5ドル(約250円)と通常のドリンクに比べて若干高いものの、「委託生産のコスト減に取り組んでおり、シンガポールでは現在までに3割のコスト減が達成できた」と話す。

この他、クラストが製造したものを他社ブランドとして販売する「ホワイトラベル」での取引も多く、国内外の五つ星ホテル、レストラン、カフェからは「コンスタントに注文を受けている」。
顧客企業としては、自社のラベルを貼って展開できることでサステナブルな取り組みをアピールしやすい。
他商品との差別化も図れる点も注目される理由だ。

米認証団体BLabから、環境・社会に配慮した事業活動を行っているという「Bコーポレーション」の認証を取得してからは、「多くの欧米企業から名指しで調達依頼が来るなど、影響力の大きさを実感している」。
スポーツやMICE(報奨旅行、会議、展示会)イベントからの大口注文も新型コロナウイルス後、一気に増えた。



ドリンク以外の展開も視野

クラストは、食品ロスに強い問題意識を持つインド系シンガポール人のトラビン・シンさん(32)が19年に設立した。
シンさんは現在、最高経営責任者(CEO)を務めている。
サステナブルなドリンクを製造する企業としては、東南アジア地域で初だった。
現在、社員は若手を中心に9人で構成される。

平野さんは「業界でやれることはまだいっぱいある。ドリンク以外の分野でも、アップサイクルの流れをどんどん加速化させていきたい」と、今後の展望を語る。
「ハラル認証」取得や、東南アジアへの輸出展開、日本だけでなく台湾での事業展開なども検討中だ。

今後はビールの試作品がよりつくりやすくなる体制を整える予定。
達成できれば、商品化までのリードタイムも短縮できるとしている。
目標は、30年までに世界の食品ロスの1%を削減することだ。
「出来たアイデアは、まず自分の手でアクションを起こす」という初心を忘れずにいたいと平野さんは話す。
シンガポール発クラストの挑戦は続く。

(時事通信社 シンガポール支局)









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