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2023年1月特集「シンガポール版山下清」を育成
自閉症支援学校が才能開発プログラム

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-Singapore-
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シンガポールNOW

「シンガポール版山下清」を育成=自閉症支援学校が才能開発プログラム

自閉症の子どもに特化した特別支援学校「パースライト・スクール」を訪れた。
プロの芸術家育成を目指すプログラム「アーティスト・デベロップメント・プログラム(ADP)」があると聞いたからだ。
英才教育といえば、シンガポールの得意分野。取材を通して、ADPが目指すのは「シンガポール版山下清」を育成する一大プロジェクトではないかと思わされた。
障害があった山下清氏もまた、幼少期に才能を見いだされ指導を受けたことで才能を開花させた。

ADPは2023年に開講13年目を迎える。プロを輩出するなど着実に実績を出している。
特に優れた学生の作品は、シンガポールを訪れた政治指導者に贈呈するなど、外交の一助としても用いられている。
特別学級の教育成果を世界に紹介し、外交関係強化にも役立てている。
パースライト・スクールのロイ・シウメイ副校長に話を聞いた。

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パースライト・スクールのロイ・シウメイ副校長=22年12月14日、シンガポール



授業料は無料

自閉症の学生は、意見を伝えたり意思疎通を図ったりするのは苦手でも、繊細な感性を持ち、ずばぬけた集中力を持っている。絵が得意なある学生は、1日少なくとも3時間、日によっては10時間ぶっ通しで制作に没頭することもあるという。
ADPを開講当初から見守っているロイ副校長は「障害にばかり目を向けるのではなく、得意なことを伸ばしてあげたい」と目を細める。「彼らは私達と違う方法で世界を見ている」と感性の鋭さを指摘する。

ADPでは、選抜された学生を対象に毎週土曜日、特別授業が行われる。プロの芸術家から直々に指導を受ける。
作品のスタイルはそれぞれだが、同じ対象物や同じ手法で描き続ける学生が多いため、教育を通じて「新しい表現方法を見つけられるよう」後押ししている。
ちなみに、ADPの授業料、施設費、画材費などは学校側が全負担。選ばれれば無料で参加できるシステムだ。
現在58人が参加しており、うち約半分は卒業生。最年少は7歳で30代の卒業生までが指導を受けている。

ADPに在籍するグレン・プア君は、繊細な線を駆使した写実的なタッチで建物を描くのが得意だ。15年、中国の習近平国家主席がシンガポールを訪問した際、両国要人が集まる会食会で自身の作品「ボタニックガーデン」を習主席と彭麗媛夫人に直々に贈呈した。

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習近平主席に作品を贈呈したグレン・プア君(右端)(パースライトスクール提供)

ADPの学生の作品は外交の場で活用されている。
22年4月に森まさこ首相補佐官がシンガポールを訪問した際には、ジョセフィン・テオ国務相(情報通信担当)が森補佐官にADP卒業生の絵画作品を贈呈した。
作品に感銘を受けた森補佐官のもちかけなどがあり、22年12月に開催された日本とシンガポールの子どもたちによる共同制作アート展「日本×シンガポール 国際アート交流展」の作品制作には、両国の通常学級の子どもの他にパースライト・スクールの生徒も加わった。
森補佐官は共同制作アート展の開催経緯について説明し、「(プア君の作品は)官邸の私の執務室に飾り、訪れる皆さんに紹介している」とコメントを寄せた。作品が両国の架け橋になった。



カフェでグッズ販売



中部アンモキオにあるパースライト・スクールのキャンパス1構内には一般の人も利用できるカフェがあり、ADP所属の学生が描いた作品や、グッズが販売されている。
カフェは19年にオープン。クオリティーが高くユニークですてきなグッズが並ぶ。
シンガポール航空など大手企業、ブランド、メーカーなどとコラボも行っており、種類が豊富だ。
日系企業ではピジョンがコラボの哺乳瓶を販売している。グッズ販売収入の一部は作画した生徒に寄付される。

販売員によると、ジョセフィン・テオ国務相はカフェを訪れるといろんな種類のグッズをたくさん買って帰るのだそう。
いろいろな人にプレゼントしつつ、シンガポールの取り組みを紹介しているのかもしれない。

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学生の作品を用いたグッズ

狭き門

さて、冒頭でADPが国を代表するアーティスト育成を目指した一大プロジェクトと書いたのは、その競争率の高さと教育方針からだ。
パースライト・スクールには約1800人の自閉症を持つ学生が在籍するが、ADPに選抜されるのはたったの58人。このうち半分は卒業生というのだから、在学生はほんの一握りということになる。

基本的には、子どもが描いた作品を美術教員やプロの芸術家が見て、特別な才能があると判断された子に限り招待される。
ロイ副校長は「通常の美術授業を含め、すべての学生が平等に学ぶ機会が与えられている。ADPはカリキュラム以外の時間で行われる特別クラス」と説明する。
それでも、選抜の過程で保護者から「なぜうちの子は入れないのか」と苦情を受けることもある。

驚かされたのは、才能ありと認められたADPクラス内にも階級があるということだ。
トップ、セカンド、サード・アーティストの三つにランク分けがなされる。サード・アーティストに属する学生の作品は、1枚200~300シンガポールドル(以下ドル、約1万9000~2万9000円)の値打ちが付く。
一番下のレベルでもそれなりの値段が付くのは驚きだが、トップ級は1枚1000ドルほどの値打ちが付く。ADPではみんながトップ・アーティストになれるよう訓練を積む。
芸術は明確な点数を付け難い領域であるにもかかわらず、作品の値打ちで明確な目標を設けているとは。これぞシンガポールとうならせるエリート主義の教育方針だ。

着実に実績も出している。
15年、UOB銀行主催でシンガポールの若手芸術家を表彰するアワードでは、ADP所属のエズラ・チャン・イー君(当時15歳)が最も将来性のあるアーティスト賞を受賞した。
受賞作品「プレイ(Play)」は、エズラ君の頭の中にある「楽しいこと」が画面いっぱいに広がるユニークな一枚だ。言葉で表現することが苦手な彼のために、先生がタイトルを付けた。
一般部門にもかかわらず、障害を持つ学生が受賞したのは快挙だった。

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ADP所属のエズラ・チャン・イー君が手掛けた作品(パースライトスクール提供)

パースライト・スクールでは芸術以外にも、ダンスとITの分野で同様の才能開発プログラムを設けている。
ロイ副校長によると、文学の領域でも同じようなプログラムを開設する予定だという。
今後、この学校からどんな逸材が生まれるのか、ぜひ見守っていきたい。

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