#parti editor's travel

【パルティ編集部の個人旅行】
スペイン・カナリア諸島 Canary Islands, Spain

夢かうつつか、幻想的な別世界で
大自然のアートに魅了される

たま~に連載。元編集Uです。
イギリスからふらりと、旅先に選んだスペイン領カナリア諸島。 アフリカ大陸の北西沿岸に近い大西洋上にある7つの島からなるカナリア諸島。 その中の「ランサローテ島」へ行ったときの旅行記です。




本当にあった、物語の中の島「カナリア諸島」

カナリア諸島、その地名を最初に目にしたのは、小学生のときに読んだ物語の中でのことだった。

だから大人になってヨーロッパに住み始め、その場所が実在すると知ったときには胸が高鳴った。しかもそのスペイン領・カナリア諸島は、ヨーロッパでも有数のバカンス・デスティネーション。各国から格安航空会社の直行便で、いとも簡単にアクセスできるのだ。ならばぜひとも行きたいと、常に旅先候補に上がりつつ、いつしか10年も経ってしまった。そんなとっておきの目的地に降り立ったのは、バカンス・シーズンもひと段落した9月上旬。



それぞれ特色あるカナリア諸島の中で、選んだのはランサローテ島。 クレーターと溶岩の織り成す景色が圧巻で、ラクダもいるらしいとの情報が決め手となった。空港でレンタカーを借り、うだるような暑さの島を走り抜ける。スペイン領、という言葉に惑わされがちだが、モロッコの沖合約125kmに位置するこの島は、気候的にはほぼアフリカ。ラクダがいるのも当然だ。





溶岩台地とアートの融合

車窓の外に広がるのは、荒々しい溶岩石に覆われた台地。確かにどこか別の惑星に迷い込んだようで、宇宙を舞台にした映画やTVシリーズのロケ地になっているというのも頷ける。これだけの観光地ながら、派手な商業施設や看板がないことも、原始的な自然美が引き立つ要因なのだろう。後に知ったのは、それは地元の芸術家・マンリケが、愛する故郷を観光開発から守るべく、都市計画に尽力したおかげということ。



マンリケが洞窟の造形を活かしてデザインした洞窟テーマパーク。



彼の作品は島の至るところに点在し、地形を活かした洞窟カフェやシアターなど、幻想的なアート空間がこの島の魅力を何倍にもしている。



展望台の内部には、溶岩地形を巧みに利用したお洒落すぎるラウンジが。これもマンリケによる設計。



洞窟のコンサートホール。ここで歌声を聴くためだけに、また訪れたくなってしまう。



ガイドツアーで行く洞窟探検は驚きがいっぱい。光の入り方で、印象がガラリと変わるのも自然の芸術。



洞窟を抜けるとそこに天国のようなプール!
どこまでも透き通るターコイズブルーに魅せられる。





密やかな、美しき漁村

異空間のドライブを楽しみながら、北の端の小さな漁村の宿を目指す。島の大きさはシンガポールと同じくらいで、端から端まで車で走っても1時間程度。ただし人口はおよそ40分の1、人気のない道をひたすら進む。辿り着いたのは、真っ白な民家が立ち並ぶ素朴な村だ。海岸線のあちらこちらに溶岩が作り上げた潮溜まりがあり、老若男女、水着姿のご近所さんの集う天然プールとなっている。人懐こい好奇の眼差し受けながら、お邪魔させてもらってシュノーケリング。時が止まったようなけだるい昼下がりに、波の音とスペイン語での井戸端会議、そして海に飛び込む子らの嬌声が相まり耳に心地よい。

白い建物に緑の窓枠がアクセント。町の人は皆、気軽に挨拶を返してくれる。




海沿いの家々は、玄関を出てそのまま海に入れる、夢のような階段付き。




釣り船に乗ると、何十頭ものイルカがジャンプしながら、船を追いかけてくる。



宿からの光景。朝から晩まで、いつ覗いても同じおじいさんたちがベンチでおしゃべり。






海の幸、タコのグリル

海で遊んだ後は、お楽しみの地元飯。宿のお母さんに勧めてもらったのは、小さな海辺の食堂。そのメニューにタコのグリルの文字を見つけ、俄然盛り上がってくる。完璧な焼き色のタコは、見た目を裏切らず外はカリッと、それでいて中はねっとりと柔らかく。地中海各国でも食べてきたけれど、ここのタコが一番かもしれない。この後も食事は、どこに行っても何を食べてもハズレがなかった。夢中でタコにかぶりついていると、遠巻きに見ていた周りの人が話しかけてくる。初めて来たのか、あそこはもう行ったのかと、いろいろな情報を教えてもらう。



一年中タコの取れるランサローテでは、大抵の店でタコ料理を楽しめる。トコブシやアワビを思わせる名物・ラパス貝。白ワインのお供に最高!イワシのグリルがあるのは幸せの極み。




サンデー・マーケットの誘惑

ヤギがお出迎えしてくれるサンデー・マーケット。ヤギのチーズもよく食べられている。



島には物資も届きにくいだろうと、お土産は期待していなかったのだが、これがまた嬉しい誤算。週末市が出ると聞き、ちょっと覗くつもりで出かけたところ、数時間後には両手いっぱいに荷物を抱えることに。



広大な敷地に、ハンドクラフトや楽器、日用雑貨に食品と、様々なものを扱うストールが数百件並ぶ、魅力あふれるマーケット。



スペイン的なデザインセンスにアフリカの鮮やかな色彩が加わった、ユニークな商品が買い物欲を刺激する。ストリート・パフォーマーのレベルも高く、ツーリストだけでなく、地元民も各地区から続々とやってくる。



ふと見かける何気ない光景なのに、まるで演劇の一コマのよう。そういえば、スペインだったと思い出させるフラメンコ。






ノスタルジックな村のお祭り



十二分に島を満喫し、明日は帰るという最終日。外に出るといつもと様子がなんだか違う。お揃いの帽子をかぶった家族が、装飾を施した小さな舟を引いて歩いている。面白そうだとついていった先には、同じような船と着飾った人々がずらり。滞在中、移動遊園地が出ていたのは知っていたが、どうやら本番は今日だったらしい。飾り立てた舟に積んだ飲み物や食べ物を片手に、日が暮れるまでひたすらおしゃべり。



船ごとにお揃いの衣装を着る。民族衣装もやはり白と緑。 伝統衣装以外では、麦わら帽子に白シャツ&ジーンズが定番。



ネットで探しても英語の情報が見当たらない、ローカルなお祭り。祭りは10日間続いていたらしく、被り物をした子どものパレードなど様々な催しが。



それだけでも圧巻だが、さらに本番の本番は日が落ちてから。夕闇の中、山車のように小舟を引き、音楽とともに町を練り歩く。村から出て働く若者たちも皆帰省しているらしく、話しが尽きることはない。



その行列はあまりに幻想的で、夢のよう。ともすると、この島の出来事全てが夢だったようにすら感じてくる。




アザラシとカナリアの関係

ところで肝心のカナリアだが、カナリア諸島の語源はカナリアがいたからではなく、ラテン語で犬を意味する“canis”だという衝撃的な事実を滞在中に知ることとなる。しかも“海の犬” と呼ばれたアザラシがいたことに由来するのだそうだ。むしろカナリアは、カナリア諸島にいる鳥だからカナリアと名付けられたのだとか。旅行中、あまりに印象的なことが多すぎて、カナリアの鳴いているのが聞こえたか、記憶に残っていないことが悔やまれる。


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