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【シンガポールNOW】
AI活用が変える「α世代」の教育現場
展示会リポート

-Singapore-
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シンガポールNOW

AI活用が変える「α世代」の教育現場
展示会リポート

教育現場への人工知能(AI)活用が加速している。
教育(Education)と技術(Technology)を組み合わせた「EdTech(エドテック)」を扱う見本市「EDUtechアジア2023」が11月7~9日にシンガポールで開催された。
会場では「α(アルファ)世代」をターゲットとする最先端のサービスが紹介され、中でもAIの活用が注目を集めた。



◇「α世代」がターゲット

「生きている時代がまるで違う・・・」。アラサー筆者は思わず声を漏らしてしまった。
今回、初めて「アルファ世代」という言葉を耳にした。
「Z世代」の次で、おおむね2010年以降生まれを指し、「ミレニアル世代」の子どもに当たる世代だ。
初代iPhone(アイフォーン)の発売が07年、インスタグラムの登場が10年ということを考えると、いかに異なる時代を生きているかが分かる。

アルファ世代は、物心付く頃から当たり前にスマートフォンを操り、デジタルリテラシーを身に付け、オンライン上でのコミュニケーションにも抵抗がない。
一方、「Wi―Fi(ワイファイ)が無い」と不安を覚え、「スマホが無いと困る」と感じる子が多いのも、この世代の特徴だ。
エドテック企業は、こうした新世代向けの教育サービスを開発している。



◇豊富な活用例

教育現場へのAI活用では、「教師の負担軽減」と「生徒の学習補助」を可能にするサービスが2大潮流だ。
教師の負担軽減では、試験問題作成や採点などの作業をAIが担う。
学習補助では、生徒の試験結果から個人の強み・弱みを分析してアドバイスしたり、個人の特性に合わせた問題を出題したりすることで学習の効率化を図る。

展示会では、対話型AI「チャットGPT」を活用する教材も紹介された。
具体的には、コンピューターのプログラミング言語を使ってコードを作成する「コーディング」で、チャットGPTを活用する教材などがある。

米半導体大手インテルによると教育現場でのAI活用は急速に広がりつつあり、44%が短中期的にAI導入を計画中とする調査結果を紹介。
活用は今後、さらに本格化しそうだ。



◇求められる専門技術

AIを駆使する専門技術が時代に求められるとの指摘もある。
世界経済フォーラム(WEF)が今年5月に発表した報告書では、世界の労働市場の激変により、27年までに6900万の新規雇用が創出される一方、8300万の雇用が失われると予測。
実質的には現在の雇用の2%に相当する1400万の雇用が失われるという。

台頭する職種としては、AI、機械学習、データ分析、DX(デジタルトランスフォーメーション)、フィンテック分野などの専門家が挙げられている。
こうした能力を有する人材の育成は、教育現場の課題だ。
カタカナばかりでこちらは頭が追い付かないが、アルファ世代はこれが当たり前の時代を生きる。

インテルは、このようなテクノロジー人材を育成する教材「インテルSFIスターターパック」を展示会でPRした。
初等教育への導入も想定してプログラムされている。
インテルの担当者は「教師がマスターしないと教えられないというのは誤解で、教材を活用すれば教師が扱えない分野も教えることができる」とアピールした。



講演する技術教育研究所のeラーニング担当長シャリン・タン氏=11月9日、シンガポール

AI活用には課題点もある。

高等専門学校シンガポール・ポリテクニックの技術教育研究所eラーニング担当長でシニア講師のシャリン・タン氏は、生徒がAIを正しく利用するため、教師の役割の重要性を訴えた。
「AIは生徒の勉強を助ける道具」であることをしっかり理解すべきで、そのためには教師が手本となる必要があると力を込めた。

タン氏は、教育現場へのAI導入は「一律的なアプローチではなく、学習者に合わせるべきだ」と強調。
こうした指導は、いまや初等教育から必要になっているという。



◇社会で進むAI活用

教育の外に目を向けると、シンガポールではAIの活用が進んでいる。
今年7月からは、公務員の業務での文章作成に「チャットGPT」を導入、初期段階として約4000人が政策文書や契約書、スピーチ原稿などの作成で利用を始めた。

技術教育研究所では、20年度の入学生からAI基礎科目を全学部の必修科目とし、AIに関する基礎知識や商品・サービスへの応用方法を学んでいる。

シンガポールでは民間人もデジタルリテラシーが高く、コーディングに取り組む人が約100万人と人口の6人に1人に相当する割合で、世界でも最高水準とされる。
こうしたシンガポールでの先進的な取り組みは、他国の参考になりそうだ。

最後に、第2次世界大戦前に活躍した米国の哲学者で、教育学の分野でも足跡を残したジョン・デューイの格言を紹介したい。
「きのうの教え方で、きょう教えれば、子どもたちのあすを奪う」。
教育現場へのAI導入には賛否両論があるが、もはや無視できないのが現実だ。
デューイ氏の思想は現代にも当てはまる。




(時事通信社 シンガポール支局)







※2023年11月9日にアップデートされた情報です。


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