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【シンガポールNOW】
日系情報誌「Parti」、30年の歴史に幕
青木編集長インタビュー

-Singapore-
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日系情報誌「Parti」、30年の歴史に幕
青木編集長インタビュー

シンガポールの日系生活情報誌「Parti (パルティ)」が2024年2月で無期限に活動を休止することになった。
1994年の創刊から現在に至る30年間、シンガポールに住む日本人向けに生活情報を届けた同誌が幕を下ろす。
コロナ禍をきっかけに就労ビザの取得・更新が困難になり、人員確保ができなくなったことが休止の引き金となった。
編集長の青木麻美氏にこれまでの歩みを聞いた。




◇「ずっといいチームで」

パルティは、パステルカラーのデザインが印象的な月刊の日本語フリーペーパーだ。
シンガポールに住む30~40代の日本人女性をターゲットに、美容、旅、飲食、教育、クリニック情報など、生活を楽しく・リラックスできる情報を届けた。


紙媒体での最後の発行となった「Parti」の表紙


パルティの大黒柱は、勤務歴20年で12年間にわたり編集長を務めた青木麻美氏。
もともと編集と営業の約6人体制で活動してきたスタッフの数は、就労ビザが厳しくなってから徐々に減り、最後は営業担当の奥野亜幾子氏との2人になった。




月刊誌から季刊誌へ、紙からオンラインへと、規模を縮小しつつも、できる範囲での配信を最後まで続けた。
「ずっといいチームで、楽しく届けてきた。その気持ちが紙面からも伝わっていれば」と青木編集長はこれまでを振り返る。

一般的にフリーペーパーといえば、各社の広告がずらりと並ぶ形態が主流だが、パルティは通常の広告をなるべく使わず、記者が取材する「記事広告」のスタイルにこだわってきた。
青木編集長の「ソファに座ってゆっくり読める雑誌を無料で」という思いから、インタビュー記事や特集ネタなど「読み物」の要素を最大化する誌面づくりで、ファンを増やしてきた。



◇「試行錯誤」の船出

パルティの創刊は1994年。
読者参加型の媒体にしたいという願いを込めて「Participation (参加)」から頭の5文字を取った。
シンガポールに日本語媒体が少なかった時代、自宅に無料配送する唯一のフリーペーパーとしての発足だった。
元社長で創業者の高森徹夫氏によると、当時、一般向けの日本語媒体は有料紙「星日報」しかなく、ほかに、廃刊したばかりだった初の日本語フリーペーパーと比べると、「それよりも高い広告料金を徴収するフリーペーパーが、どこまで広告主に受け入れられるか試行錯誤での船出」だったと振り返る。


パルティ、1994年創刊2号の表紙




表紙は苦労してなんとかカラーにしたが、中は白黒。
それでも、日本語の無料媒体は貴重だったため、同誌は在住者に重宝された。
しばらくして、競合が増えるようになると、パルティは「女性向け」として読者層を絞り、現在のスタイルを確立させていった。

こうした変革を後押ししたのは、青木編集長を筆頭とする女性チーム。
編集プロダクションでの経験があった青木さんは、フリーペーパーの読み物としての新しい形を模索した。
初めは関心が高くなかった子育て世代の話題も、自身が現地で双子の妊娠・出産・子育てを経験するなかで、誌面づくりに力が入った。
「できるだけ体験して、実感のある心に届くものを」は青木編集長のモットーだった。





◇多くの独自企画

パルティの柱に旅特集がある。在住日本人が好みそうなシンガポール発の旅行を、旅行代理店と計画して紹介した。
近場では、インドネシアのビンタン島やバリ島、タイなどが有名だが、こうした観光地を行き尽くしてしまった人向けにも、穴場スポットを紹介した。


インドネシアのマナドでイルカ取材をする青木編集長(本人提供)

例えば、インドネシアのマナドは、シンガポールからの直行便があり、「海がきれいでシュノーケリングが楽しめる」。
イルカが泳ぐ姿も近くから見られる穴場スポットだという。
またベトナムのコンダオ島にある高級リゾート「シックスセンシズ」は、ウミガメの産卵も見られる、これまた自然好きの穴場スポットと話した。

この他、シンガポールならではの豪邸を巡る「憧れのお宅拝見」、女性の身体を考えた「子宮レボリューション」、日系ラーメン店が増えた時期には「イケ麺特集」などの企画が印象に残っているという青木編集長。
パルティのバックナンバーは、2024年8月末まで公式サイトで公開されている。



青木編集長は、活動休止を惜しむ声と向き合いながら、30年の歩みに思いをはせる。
営業の奥野氏と「本当によく頑張った」と互いにねぎらいの声をかけた。

「廃刊」という言葉では、あまりに味気ない。
パルティの文字が「またいつか復活してほしい」という最後の願いが、「無期限の活動休止」という言葉に込められている。
(シンガポール支局 佐藤澪)







※2024年2月6日にアップデートされた情報です。


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