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【シンガポールNOW】
EV化の進展に注目
中国メーカーに勢い

時事通信

-Singapore-
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シンガポールNOW

EV化の進展に注目
中国メーカーに勢い

シンガポールで電気自動車(EV)の普及が進んでいる。
世界でも最も車が高いとされるシンガポールだが、EV購入者に対する政府の優遇措置も後押しとなり、2023年通年の新車登録全体に占めるEVの割合は18%まで伸びた。
市場では中国ブランドに勢いがあり、より高性能で割安の車種が市場に出回る。
EVを巡るトレンドについてリポートする。




◇見慣れたテスラ、伸びるBYD

少し前までシンガポールでテスラ車を見かけると、「おっ、テスラ!」と足を止めていたが、最近ではそんなこともなくなった。
新車登録全体に占めるEVの割合は、21年に4%以下にすぎなかったが、22年に12%、23年には18%と確実に勢いを増している。
配車アプリ「グラブ」などで予約した車がEVというケースも増えた。筆者が人生で初めてテスラ車に乗ったのも、配車アプリの利用時だった。

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長城汽車「オラ(欧拉)」のEV


最近、EVで最も勢いがあるのは中国の比亜迪(BYD)だ。
23年7~9月期におけるEV新車販売ランキングでは首位に立ち、2位にBMW、3位がテスラの順だった。

シンガポールでは1月、「モーターショー2024」が開催された。
経済紙ビジネス・タイムズによると、今回は30台以上の車両がデビューを飾ったが、このうち21台がEV。
出展企業全体では、中国から新たに6ブランドが初参加するなど、中国勢の勢いが目立った。
BYDは今回出展を見送ったが、中国EV勢では、賽力斯(セレス)、遠程汽車(ファリゾン)、奇瑞汽車(チェリー・オートモービル)の「オモダ」、長城汽車(GWM)の「オラ(欧拉)」などが名を連ねた。



◇国別首位は独、迫る中国

23年1~9月期のEV販売会社の国別ランキングでは、首位は現状ドイツで、内訳は首位BMW、2位ベンツ、3位ポルシェ、4位アウディと続く。
2位は中国で、ブランド別ではBYD、上海汽車のMG、浙江吉利傘下のボルボの順で売れている。
テスラで先陣を切っていた米国は今では3番手だ。

中国がドイツを抜くのは時間の問題だろう。
モーターショーに参加した業界関係者は「中国勢のおかげで、高性能で割安なEVモデルが出回るようになった。
消費者にとってメリットは大きいが、欧米の競合社は頭が痛い」と苦笑いする。

シンガポールでは26~27年に、自動車所有権証明書(COE)の供給がピークを迎えることが見込まれ、自動車販売会社の間では需要の囲い込みに熱が入る。

政府は道路の混雑回避や環境対策のため、COEの発給数を調整して市中の自動車台数を管理しているが、COEの供給が増えれば、これまで高騰していたCOE価格の低下につながるため、消費者は車を買いやすくなる可能性がある。

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韓国・現代自動車がシンガポールで生産するEV「アイオニック5」



◇ガソリン・ディーゼル車廃止に向けて

EVが注目される背景には、ディーゼル・ガソリン車の廃止目標がある。
25年からディーゼル燃料の自動車やタクシーの新規登録を停止し、40年までにガソリンなどすべての内燃機関エンジンを廃止することを目指している。
これに足並みをそろえる形で、EVやハイブリッド車の販売を拡大していく計画だ。
EV生産の誘致も行っており、韓国の現代自動車は23年下半期よりEVの組み立て生産をシンガポール工場で開始した。

シンガポールの自動車販売代理店大手サイクル・アンド・キャリッジ・オートモーティブ(C&C)が23年6月に行った調査では、現在ガソリン車を保有する消費者の67%が25年までに買い替えを計画しており、うち半数はハイブリッドかEV購入を検討。
またEV購入を希望する消費者の多くは、高学歴で裕福な若年層という特徴も見られた。



◇EV購入のリベートは?

では、EV購入でどれだけ優遇措置が受けられるのか。
「車両の環境汚染度に応じてリベートまたはペナルティーが割り当てられる措置」と「EVを購入することで受けられる登録料控除制度」の二つの優遇措置があり、合わせて最大4万5000シンガポールドル(約490万円)が、購入時に一括で差し引かれることになる。

地元販売代理店の担当者によると、ガソリン車とEVの価格差は縮小されつつあるとはいうものの、「顧客にとってフルEVはまだ高級車との認識がある」。
ほかにも、モーター交換が高額でハードルが高くなってしまったり、住宅によっては充電場所がなかったりするのも課題という。

フルEVは最大の優遇を受けられるにもかかわらず、「高額なフルEVを買う代わりに、割安かつ大型で多目的なハイブリッド車の人気が根強い」と担当者は説明する。
優遇措置があっても、それほど手軽にEVを購入できるほどの状況には至っていない。
陸上交通庁(LTA)は、EVの購入初期費用が内燃エンジン車と同等になるのは、20年代半ばと見込んでいる。

EV普及を促すため、充電インフラの整備は不可欠だが、LTAは30年までに6万カ所のEV充電ポイント整備を目指している。
住民の8割が暮らすとされる公団住宅(HDBフラット)では25年までに約2000カ所の駐車場に充電ポイント1万2000基を設置する。

自家用車だけではない。LTAは30年までにバス車両の半数をEVにし、40年までには全てのバスをクリーンエネルギー化する計画だ。
タクシーも30年までに半数以上をEV化する目標を掲げる。



時事通信
シンガポール・モーターショーでのBMWの展示



◇それでも所有したい・・・

そもそも、だ。
都市鉄道MRTやバスなどが発展したシンガポールで、より多くの人に公共交通機関の利用を促せば、環境対策に直結すると思うのだが、シンガポール人独特の気質「Kiasu(キアス)」をもってしては難しいのかもしれない。
キアスとは福建語を語源とし、「負けや損を恐れ、相手に劣っていたくない」とする考えで、地元では良く知られた言葉。ブランド物などで差をつけるのだが、中でも最たる例が車の所有だ。

24年最初の自動車所有権証明書(COE)入札では、例えばトヨタ・カローラ1600ccに必要な「カテゴリーB」の場合、価格は8万5010シンガポールドル(約938万円)となった。
紙切れ一枚の所有権を手に入れるだけで900万円以上。
もちろん、車体価格は別。政府はわざわざ高いCEOを設けて車両数を規制しているのだが、これが逆に相乗効果となって付加価値を高め、キアス精神を持つ人の「所有したい欲」をかき立てているようにも見える。


(時事通信社 シンガポール支局)







※2024年2月6日にアップデートされた情報です。


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