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【シンガポールNOW】
政府が目指す長寿都市革命!
予防医療に本腰

-Singapore-
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日々最新の情報を全国に配信する時事通信社より、シンガポールに関する最近のニュースをピックアップしてお届けします。



シンガポールNOW

政府が目指す長寿都市革命!
予防医療に本腰

シンガポールでは「超高齢化社会」入りが迫っている。
これに備えるため、日本とは違って興味深いと感じる政策は幾つかあるが、その一つはそもそも病気にならないようにする「予防医療」への注力だ。
増える医療費増大への対策として、健康寿命を伸ばすべく投資していく方針を打ち出している。
人生100年時代と言われる今、高齢者が元気に暮らせる社会を目指すためにも、予防医療は極めて重要。
シンガポールの具体策はアイデアに富んでいる。
同国の予防医療の今をリポートする。




◇近代的な都市国家ならでは

長寿の秘訣(ひけつ)を追求する旅を描いたネットフリックスのドキュメンタリーシリーズ「100まで生きる:ブルーゾーンと健康長寿の秘訣」で、シンガポールはなんと6番目の長寿地域として取り上げられた。
この他に紹介されている地域は沖縄、イタリア・サルデーニャ島、ギリシャ・イカリア島など、自然に囲まれ物事や時間がゆっくり流れる場所だ。
こうした場所なら豊かな老後生活が想像しやすいが、シンガポールはそれとは真反対で人口密度が高い都市国家だ。
シンガポールに健康的な高齢者が多いのは、政府主導の対策に起因する点が、他の長寿都市と異なるユニークなところ。
政府は今後もさらに高齢者が増えることを見据えて、予防医療にさらに本腰を入れる。
具体策を見ていこう。



◇健康な状態から始めるべし

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「ヘルシー365」アプリの管理画面

まず紹介するのは健康アプリ「ヘルシー365」だ。
健康な時期から始める「第一予防」に相当する対策で、高齢者のみならず、あらゆる住民が参加できる。
保健省(MOH)が管轄する、その名も「健康促進庁(HPB)」が2015年から導入しており、今では日本人の駐在員や家族も「神アプリ」と称して愛用しているようだ。
外国人でも在住者であり、オンライン政府サービス「シングパス」があれば、誰でも利用できる。


健康でいるための活動を行うとポイントがたまる仕掛けによって、健康的なライフスタイルを推奨するアプリだ。
たまったポイントはスーパーの商品券などと交換できる。
国民・永住者には、運動データを計測できるスマートバンド「フィットネストラッカー」が希望者を対象に無料で付与される。
特有のロゴが付いているため、一目で「ヘルシー365」のスマートバンドとわかるのだが、付けている人は案外多い。


ヘルシアチョイス認証マークが付いた食品

運動だけでなく、「ヘルシー365」では健康的な食事の摂取を推奨している。
政府が健康のために推奨する「ヘルシアチョイス」認証マークが付いた食品をスーパーなどで購入すると、購入時にレシートと一緒にQRコードが手渡され、アプリでスキャンすればさらにポイントがたまる。
この他、国内全土で無料フィットネスが開催されているが、これも健康促進庁が実施しているもので、「ヘルシー365」から申し込む。
参加するとまたポイントがもらえる。
クラス数は実に多く種類も豊富で、ズンバ、ヨガ、KPOPダンスなど各種クラスが街の至る場所で開催される。
シニアだけでなく、若者の参加も多く、気軽に参加できるのが何より良い。

個人的にはこれまで全く無関心だったが、「ヘルシー365」を使い始めて一気に健康志向が高まった。
振り返ってみれば、運動をルーチンに取り入れようと努力し、甘い飲み物や菓子にほぼ手を出さなくなっていたのは、このアプリを使い始めてからだ。




◇病気を早期発見する二次予防も

オン・イエクン保健相によると、シンガポールでヘルスケア関連の支出は国内総生産(GDP)の5%未満と、先進国平均値の半分以下となっている。
理由として健康な若い世代の存在が挙げられるが、社会が急速に高齢化しているため、医療費支出の増加は避けがたい。
同国では23、24両年の2段階で、増税が行われるが、この増収分は医療費や高齢者ケアなどに充てられる方針であると政府は説明している。
 

さらに今年7月には、病気の予防的ケア戦略「ヘルシアーSG」を開始した。
年間約4億シンガポールドル(約440億円)を投じる。
高齢者はかかりつけ医による定期的な検診を行い、体の状態に応じた健康づくりプランを提示される。
ワクチン接種なども含まれ費用の多くは政府が負担する。
病気を早期発見する「二次予防」に該当する政策となる。

そもそも社会の大前提として、シンガポールの医療制度は日本ほど手厚くない。
基本的に医療費は全て自費だ。
高齢者になると、中央積立基金(CPF)の医療費積み立て(メディセーブ)から医療費を引き出すことができるが、用途は限られている。
働く会社によってはカバーされるところもあるという状況。
そのため個人で民間の保険に加入するケースもある。
こういうわけで、医療には金がかかるため、健康でいなくてはいけないというプレッシャーは常にある。




◇成功例に成り得るか

シンガポールでは自宅で介護のためのメイドを雇うケースが一般的で、メイドが身の回りのことを全てやってくれるせいか、認知症にかかる人が多かったり身体の衰退が早かったりするような印象を受ける。
一方で、日本の高齢者は一人でも家事掃除をこなしつつ暮らす人が多く、シンガポール人の目には「超人」に映るようだ。
一方、いくら身体的に元気でも孤独や生きがいのなさが寿命を縮めるとの見解もあり、政府は実家の近くに家を購入する子の世代に補助金を出すなど、住宅政策によって家族とのつながりを保つ策も実施している。

長寿都市としての政府の自己評価はまだまだ厳しい。
オン・イエクン保健相は「政府の施策やインフラで寿命を延ばしているにすぎない」と話す。
理由として、伝統的に健康的なライフスタイルを持っておらず、生活ペースが速く、ストレスも強い点などを挙げた。

シンガポール人の平均寿命は84歳だが、平均健康寿命は74歳。
健康問題に悩む時期が10年もあることから、この差を縮めることが政府の目標だという。
「健康的なライフスタイルの実現には、何世代もかかるかもしれないが、超高齢化社会に向かう中でやり遂げる必要がある」とオン保健相は力を込める。
シンガポールモデルは、新たな成功例に成り得るのか。



(時事通信社 シンガポール支局)







※2024年1月11日にアップデートされた情報です。


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